目次
課題文・キーワード
発掘資料の整理作業について説明せよ。
キーワード
洗浄・登録・接合と復元・発掘資料報告書
本文
これより、発掘資料の整理作業について説明する。
発掘が進行するにつれて、様々な出土遺物が採集され、最終的にはかなり膨大な量となる。これらほとんどに泥が付着しており、そのままでは分析・研究に支障をきたすこととなる。従ってまず出土資料の洗浄という作業が必要になる。何故洗浄が必要なのかというと、泥が付着していると出土品の全体像の把握を困難にし、その後に行われる登録、発掘調査報告書の作成の支障となることが挙げられるからである。水洗洗浄はタワシやブラシを用いて作業することだが、この際資料を傷つけないことに注意しなければならない。洗浄することによって、後に行われる資料の分析を困難にすることは避けるべきである。例えば、石器の刃部を顕微鏡で観察し石器の使用痕からその石器の使用方法や用途を推定する研究があるが、タワシやブラシでこすると、新しいキズをつけてしまう危険性がある。この時は超音波洗浄機を用いて、泥を落とすようにする。超音波洗浄機はブラシが使えないような資料に用いられるメリットを持つ反面、超音波は破壊力を持っているため、軟らかで脆い骨などは粉砕されてしまうデメリットがあるので注意する必要がある。また水で洗浄できないような金属製品などは乾燥させて泥を取り除いたり、化学的な薬品を用いる方法でサビを落とす必要がある。その資料の価値を落とさないように、その資料の材質や保存状態の応じた方法を臨機応変に対応していかなければならない。
洗浄の作業が完了した資料は登録という作業にまわされる。この作業の必要性は、ほかの出土記録を持つ別の資料と一緒にして比較したり、分類したりすることが容易になるからである。出土遺物はその全てに、遺跡の場所、どの層なり遺構に伴い、いつ出土したかという出土記録がつけられる。これは普通荷札に似たラベルまたはカードが用いられている。この記録を伴っているが否かで出土品の史料価値は全く異なるので、洗浄中でもこのラベルと遺物が遊離しないように注意する。白または黒のポスターカラーで細かくデータを記入していき、クリアラッカーなどでその上をコーテイングする。これにより、その資料は出土記録を資料そのものに付記されたことになる。
出土遺物の整理作業の中でいま一つ重要な作業は遺物の接合と復元である。必要とされている理由は二つあり、一つは断片から本来の形に復元することで、遺物本来の姿を知ることや、当時の生活の復元をより具体的な姿でとらえようとすることである。もう一つは断片となっていた資料を接合することにより、その遺跡のいかなる部分に広がって遺棄されていたかを知ろうとすることである。このようにして復元された考古学資料は、補修を加えられ博物館の展示資料として活用することができる。これにより、単なるバラバラのハエンであった資料が文化財として広く勝ちようできるように、その価値が高められるようになるのである。
整理作業が完了すると、発掘の最後の仕上げともいうべき発掘資料報告書の作成に入る。発掘資料報告書に記録されることにより、初めての発掘の内容は多くの人々に対して公開されることになるのであり、発掘によって得られた考古学資料は、考古学的資料として公のものとなるのである。発掘資料報告書は第三者に理解しうるような形で、できるだけ客観的かつ公平な内容となることを心がけるべきで、発掘当事者にしか理解できないような記述を避けるべきである。発掘資料報告書の内容は、調査の目的と経過、遺跡の立地や環境、調査の概要、遺構と出土遺物についての記述、調査成果のまとめといったものが基本となる。遺構と出土遺物に関する部分が中心となっていき、先に整理した測量図、実測図、拓本、写真などを使用して全容について説明していく。資料の多くは図で示すほうが容易に理解を得られるが、しかし、全ての考古学の資料が図によって示せないので、資料の色調、材質の特徴、破損の状況といった図化しにくい情報は文章により十分に補うことが必要である。
以上、考古学の研究は一度の調査で達成できるほど簡単なものではないから、一回の発掘はある一程度の問題の解決をもたらすとともに、いまだに未解決の問題が存在することも教えてくれる。未解決の問題、あるいは新たな問題となったことは何であるかを的確につかむべきである。そしてそれが次の調査へとつながる出発点となる。(文字数1809)
参考文献
- 鈴木公雄『考古学入門』東京大学出版会 1988.1.30 p128〜p 138
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